節気便り
2025.11.22
小雪
木守り
二十四節気では「小雪」の頃──、
寒椿が花開き、山々には初雪が舞い始めます。
小雪とは、冷たい雨が雪へと変わる頃のこと。
陽射しが弱まり、日ごとに寒さが増していきます。
葉を落とした柿の梢に、ぽつんと残る朱色の実──、
そのひとつを「木守り(きまもり)」と呼び、
翌年も豊かに実るように祈る慣わしがあります。
柿は、日本で最も古くから栽培されている果樹で、
保存食としてだけでなく、生薬や染料としても重宝されてきました。
古の人びとは、柿の木には死者の魂が宿るとし、
人と共鳴する魂をもつ“霊木”として信仰しました。
また、柿の実はその魂が具現化したものとされ、
すべてを採り尽くすと木の魂までも奪ってしまうと考えたため、
一部の実を残しておく慣わしが生まれたのだそうです。
木守りには、食糧の乏しい冬を迎える野鳥や旅人への
お裾分けの意味合いもあります。
鳥は空を飛ぶことから天と地を繋ぐ存在とされ、
果実を鳥に捧げることは、神への供物になると考えられました。
また、神は貧しい旅人の姿で現れるとも言われ、
さすらい人に恵みを分け与えることは、
神に収穫物を捧げることに通じるとされたのだとか。
木守りは、神への感謝とともに、
翌年の豊作への願いを込めたお守りとして大切に受け継がれてきたのです。
木守りの語源は諸説あり、
残された実が自ら名乗りを上げているように見えることから「木名乗り(きなのり)」、
また、最後に残った実に過ぎゆく秋の名残を感じることから、
「木名残(きなごり)」と呼んだことに由来するとも言われています。
晩秋の季語としても親しまれており、
山口誓子は“木守り柿 ひとつ残して 空広し”と詠み、
梢にひとつだけ残された柿の実と広々とした空を対比させ、
冬を迎える前の静けさを表しています。
澄んだ秋空にひときわ映える木守りは、美しき日本の原風景。
豊穣への感謝とともに、来たる季節への祈りを重ねて。