亥の子

二十四節気では「霜降」の頃──、
木枯らしが吹き、楓や蔦を色鮮やかに染めていきます。

霜降とは、露が凍って霜が降りる頃のこと。
秋が深まるにつれ、朝晩の冷え込みも厳しくなります。

亥の月(旧暦十月)、最初の亥の日に行われる収穫祭「亥の子」。
多産の猪にあやかり、亥の子餅を食して
子孫繁栄や無病息災を祈ります。

亥の子は、亥の月、最初の亥の日、亥の刻(午後十時頃)に、
穀物を混ぜた餅を食して無病息災を祈願する、
古代中国の儀式「亥子祝(いのこいわい)」に由来します。
日本では宮中行事として取り入れられた後、
農村部で行われていた田の神を迎える収穫儀礼と結びつき、
庶民の間にも広まっていきました。

亥の子に欠かせない「亥の子餅」は、
新米に穀物の粉を混ぜた餅生地で餡を包み、うり坊の姿に見立てたもの。
その歴史を辿ると紫式部の『源氏物語』にも記載があり、
当時は大豆、小豆、ささげ、胡麻、栗、柿、糖(あめ)の
七種の粉を入れた餅を食したそうです。
多産の猪にあやかり、子孫繁栄や無病息災の願いを込めるほか、
滋養をつけて“気枯れ”の季節を乗り切る、暮らしの知恵でもありました。
また、亥は陰陽五行で「水」にあたり、火難を逃れるとされることから、
茶の湯ではこの日に「炉開き」が行われます。
亥の子餅はその茶席菓子としても用いられる縁起物です。

亥の子では、地域の子どもたちが荒縄をつけた丸石で地面を叩き、
「亥の子、亥の子、亥の子餅ついて、繁盛せえ」などと囃子唄を歌い、
家々を巡って餅や菓子をもらう風習もあります。
地面を叩く意味は、邪気を祓い土地の神に活力を与えて豊作を祈る、
一種のまじないとされています。
この慣わしは現在でも西日本を中心に受け継がれ、
子どもの健やかな成長を願う行事としても親しまれています。

今年の亥の子は、十一月二日。
亥の子餅を食して秋の実りに感謝を込め、
一年の健康を祈る、亥の子の祝いを。