節気便り
2025.08.07
立秋
行き合いの空
二十四節気では「立秋」を迎える頃──、
山の緑に秋色が混じり、夕暮れにはヒグラシの音が響き渡ります。
立秋は、新しい四季の始まりとなる“四立(しりゅう)”のひとつ。
この日から十一月初頭に訪れる「立冬」までが、
暦の上での秋とされています。
立秋を過ぎれば、夏の厳しい暑さが残るなかにも、
空高く流れる雲や夕暮れどきに吹き渡る涼風に、
少しずつ秋の気配を感じるようになります。
詩歌の世界において「秋」は春と並ぶ重要な季節で、
俳人たちは自然の機微に心を寄せ、
その時季ならではの風情を好んで詠みました。
空の表情や虫の音、草木の移ろいなどさまざまな兆しを見つけ、
その趣を託した言葉が季語として息づいています。
「行き合いの空」とは、夏雲と秋雲が行き交う空を指す秋の季語。
この時季の空には入道雲に混じって、
刷毛で伸ばしたように伸びやかな線を描く「巻雲(けんうん)」や、
小さな雲が連なり魚の鱗のように見える「鱗雲(うろこぐも)」など、
秋を告げる雲が姿を現します。
行き合いとは、つまり“出会い”のこと。
過ぎゆく夏から来たる秋へ──、
二つの季節が同じ空で出会い、静かに巡りゆくことを意味する
儚くも情感溢れる言葉です。
“夏と秋と 行きかふ空の 通ひ路は かたへ涼しき 風や吹くらむ”
古今和歌集の夏歌の巻末を飾る、凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)による一首。
空には夏と秋が行き来する季節の通り道があり、
秋の道にはすでに涼風が吹いているのだろう、と詠んでいます。
古の人びとは行き合いの空を眺めて、
厳しい夏が過ぎ去ることへの安堵や少しの寂寥感とともに、
実りの秋を迎える喜びも感じていたのでしょう。
流れる雲に季節が映る、夏と秋のあわい──。
この時季ならではの風雅な情景を愉しみつつ、
来たる秋へと思いを馳せて。