入梅

二十四節気では「芒種」の頃──、
木々の緑が濃くなり、梅の実が黄色く熟し始めます。

芒種とは、芒(のぎ)をもつ麦や稲などの種を蒔く時季のこと。
田植えとも重なるため、農家は繁忙期を迎えます。

紫陽花や花菖蒲、睡蓮など──、
雨に濡れた花々が鮮やかさを増すこの時季。
暦の上での梅雨入りとなる「入梅」を迎えます。

入梅とは、季節の変わり目を表す暦日“雑節”のひとつで、
立春から数えて百三十五日目にあたる、六月十一日頃のこと。
暦の上では“太陽が黄経八十度に達した日”を入梅とし、
この日から約三十日間が梅雨とされています。

梅雨の語源は諸説あり、梅の実が熟す頃という意味のほか、
黴(かび)が生えやすい時季であることから
「黴雨(ばいう)」と呼ばれるようになり、
これが同じ読みの「梅」の字に転じたとも言われています。
“つゆ”という読み方は、雨の「露(つゆ)」や、
湿気で物が腐る「潰ゆ(ついゆ)」、
梅の実が熟す「熟る(つはる)」に由来するのだそうです。

古くは梅雨のことを「五月雨(さみだれ)」とも呼びました。
「さ」は田の神、「みだれ」は水垂れという意味があり、
旧暦五月の長雨のことを指します。
詩歌においては「さ乱れ」と掛けて、千々に乱れる想いを詠むのだとか。
梅雨の晴れ間は「五月晴れ(さつきばれ)」、
厚い雲に覆われた薄暗さや月のない暗い夜は「五月闇(さつきやみ)」とも呼ばれます。
そして五月闇の中を浮かぶように舞い飛ぶのが、初夏の風物詩「蛍」。
かつては、花火と並ぶ夏の風流な遊びとして、
提灯を手に夜道を歩いて蛍を愉しむ「蛍狩り」が行われました。
蛍が放つ儚げな淡い光は「蛍火(ほたるび)」と呼ばれ、夏の季語となっています。

しとしとと降り続く長雨が、野山の緑を潤す六月。
繊細な雨の風情とともに自然を慈しむ季節です。