春立つ

二十四節気では「立春」の頃──、
日ごとに寒さが緩み、木々の芽が膨らみ始めます。

二十四節気の最初にあたる立春。
この日から五月初頭に訪れる「立夏」までが、
暦の上での春とされています。

古くより季節に寄り添い暮らしてきた日本人にとって、
立春はさまざまな行事や祭事を行う一年の起点であり、
重要な節目として大切にされてきました。

立春とは春の訪れを告げる日。
旧暦では「立春正月」とも言われ、
この日を境に気の流れが変わり、年が改まると考えられていました。
霜が終わり茶摘みを迎える「八十八夜」、
台風の襲来に備える「二百十日」など、
季節の移り変わりの目安となる雑節は、
立春を起点に定められています。

光、音、気温──、春は三つの段階を経て深まると言われています。
立春の時季を表す「光の春」とは、ロシアより伝わった言葉で、
吹く風はまだ冷たさを残しながらも、
陽光だけは眩く春を感じさせるということを意味するのだとか。
暗く長い冬がようやく明け、
暖かな光に誘われるように動植物たちが目覚め出します。
光の春に続くのは、雪解け水が流れる川の音や、
鶯の初鳴きが聞こえる「音の春」。
そして春分を過ぎると、桜前線とともに気温が上昇し、
春本番となる「気温の春」を迎えます。
この頃になると大地は緑で潤い、花々が咲き誇り、
生命の息吹に満ちていきます。

“春来れば路傍の石も光あり”と詠んだのは高浜虚子。
二月の光に晒されて万物が輝き出し、少しずつ訪れる春。
春の兆しを愉しみつつ、
新たな一年によい気が巡り来るよう願いを込めて。