麦秋

二十四節気では「小満」の頃──、
草木が青々と生い茂り、陽射しが力強く降り注ぎ始めます。

小満とは、万物が次第に満ち足りていく時季のこと。
蒔いた種が成長する様子にひと安心(小満足)することから
名付けられたとも言われています。

麦畑が黄金色に染まる5月下旬。
この時季のことを「麦秋(ばくしゅう)」と呼び、
たわわに実った麦が収獲期を迎えます。

「秋」とは元来、収獲祭にまつわる言葉で、
季節の秋そのものを意味するのではなく、
百穀が成熟する実りのときを表すものでした。
初夏が“麦の秋”であれば、稲穂の収穫期は“米の秋”、
竹の葉が黄落する晩春は“竹の秋”とも呼ばれています。

米の裏作として麦を育てる二毛作が主流だった時代には、
米の蓄えが心細くなる頃、ようやく迎えるのが麦の刈り入れでした。
梅雨入り前に行わなければならないため、農家にとっては大仕事ですが、
その分活気に溢れ、喜びに満ちていました。
麦秋という言葉には、実りを迎えた安堵の気持ちが込められています。

日本人の暮らしにおいて、重要な役割を担ってきた麦。
麦秋の他にも、麦にまつわる言葉はさまざまにあります。
春を告げるカッコウやハルゼミを「麦熟らし(むぎうらし)」、
麦穂を揺らして渡る風を「麦嵐(むぎあらし)」、
麦が熟する頃に降る雨を「麦雨(ばくう)」と呼ぶなど、
いずれも季節の移ろいのなかに、麦の成長を願う心が表されています。
麦にとって、実りの秋はもうすぐそこです。