春動く

二十四節気では「雨水」の頃──、
ひと雨ごとに寒さが和らぎ、沈丁花の甘い香りが漂い始めます。

雨水とは、降り続いた雪が雨へと変わる時季のこと。
大地が潤い田畑が目覚めることから、
農耕の準備をする目安とされてきました。

雨や雪解け水により寒風に晒され乾いた土が潤い、
日ごとに艶やかになっていく様を
古くは「土膏(どこう)動く」と言い、
春の兆しとして喜んだそうです。

土膏の「膏」とは動物性の“あぶら”という意味。
春の陽光を浴びて、凍てついた大地が温まり緩んでいく様を
土の膏が動く、と言い表したのだとか。
膏には“潤す”という意味もあり、この時季に降る草木の生長を促す恵みの雨を
「膏雨(こうう)」と呼びます。
また、二十四節気をさらに三つの期間に分け、
細やかな自然の移ろいを表した七十二候において、
雨水の初候は「土脉潤起(どみゃくうるおいおこる)」。
「脉」は「脈」の俗字とされ、
雪に代わって温かな春の雨が降り注ぎ、
潤った大地がまるで脈打つように呼吸を始めます。

三月三日は、上巳(じょうし)の節句。
“桃の節句”とも呼ばれ、女の子の健やかな成長と
幸福を願う行事として親しまれてきました。
雛壇に供える「菱餅」は、強い生命力をもつ菱の実を象っており、
子孫繁栄や長寿の願いが込められるほか、
その尖った形状から魔除けの意味合いもあるのだとか。
赤は長寿をもたらす桃の花、白は清らかさの象徴である残雪、
緑は健康への願いを込めた若葉を表し、
“残雪の下で新緑が芽吹き、桃の花がほころぶ”
美しい春の情景が示されています。

 冬から春へ、大地が躍動し動植物が目覚めるとき──、
あらゆる生命が芽吹き萌ゆる、花盛りの春を心待ちに。