節気便り
2026.10.08
寒露
虫の音
二十四節気では「寒露」の頃──、
秋風にのって金木犀の甘い香りが漂い始めます。
寒露とは、冷気によって露が凍る頃のこと。
野草に宿る冷たい露そのものを表す言葉でもあります。
虫の音に秋の深まりを感じるこの時季。
夜の静けさに響くその声は、
古くから人びとに愛されてきました。
平安時代の貴族たちは、秋になると野山へ出かけ、
鳴き声の美しい虫を捕らえて籠に入れ、
宮中へ献上する「虫選(むしえらび)」を行いました。
また、虫の鳴き声や姿の優劣を競う「虫合せ」を
秋ならではの風雅な遊びとして愉しんだそうです。
江戸時代になると、夏頃から町中に「虫売り」が現れ、
屋台に小さな虫籠をぶら下げて売り歩きました。
軒先や縁側に虫籠を吊るし、夕暮れになるとその音色に耳を傾ける──、
虫の音を聴くことは、庶民の娯楽として親しまれるようになりました。
秋の虫といえば、鈴虫や松虫、そして蟋蟀(こおろぎ)。
鈴虫はその名のとおり、鈴を振るような美しい声で知られ、
松虫は松風を思わせる澄んだ音から、その名が付いたと言われています。
気温が下がるにつれて、ゆっくりと寂しげに響きわたる蟋蟀の声。
これを古の人びとは「肩刺せ、裾刺せ、綴れ刺せ」と聞きなし、
来たる冬に備えて衣を繕う促しと受け取ったそうです。
虫の音にまつわる言葉は数多くあり、虫が集まり盛んに鳴く様子を「虫すだく」、
辺り一面から聞こえてくる虫の声を秋の雨になぞらえて、
「虫時雨(むししぐれ)」と表します。
また、暗闇に虫の音だけが響き、闇がいっそう深く感じられることを「虫の闇」、
晩秋になっても鳴き続ける虫を「残る虫」と言うのだとか。
姿は見えずとも、草むらや暗がりでひそやかに響く虫の音──。
人びとはこの儚げな音色に深まりゆく秋の情景を重ね、
季節の移ろいを愛でてきました。
秋草が花をつけ、木々が色づき始める晩秋。
虫の音に耳を澄ませ、自然へと思いを馳せる秋の夜長を。